【スポーツ庁委託事業】令和6年度「感動する大学スポーツ総合支援事業」渋谷区の学校部活動の地域連携・地域移行における大学生の果たす役割に関する実証事業

 部活動の地域移行において「部活指導員」の量的・質的な確保は大きな課題です。大学生はその役割を担う人材として期待されているものの、部活動に伴う様々なリスクに対する責任の所在や大学生のインセンティブやモチベーションをどうするか等、課題も多いです。 本学は予てより、サーバントリーダーシップに基づき、論理的思考やコミュニケーション能力を重視する「信頼されるスポーツ指導者」の育成・普及が我が国のスポーツを変えうるものと考えてきました。

 本事業では、この育成プログラムの大学生への適用と、渋谷区が先駆的に進めている指導とマネジメント、それぞれの役割を担う複数の人材が参加する多角的な体制により部活動に一貫性を持たせることを特徴とした「渋谷モデル」のマッチングを検討することを目的としました。この中で、部活の地域連携・地域移行における大学生の果たすべき役割を明らかにするとともに、卒後のキャリア開発の一環として大学生が中学部活動に関与するシステムを大学がどのように作るかの検討も行いました。

大学生指導員の養成・確保にあたるフロー

第1段階
「青山学院大学による大学生スポーツ指導員研修」

 青山学院大学が目指すサーバントリーダーシップに基づいた指導の在り方や論理的思考、コミュニケーション能力を重視する部活動についての講義の他、参加大学生が自らの体験をもとに、部活動のあるべき姿を考え、そのためにはどのような指導をしたらよいのか、についてグループワークを行いました。

第2段階
「一般財団法人渋谷区スポーツ協会による研修」

 渋谷区が先駆的に進めている、各種人材を配置することにより部活動に一貫性を持たせることを特徴とした「渋谷モデル」について学びました。この中で、主に技術指導を行う「ユナイテッドコーチ」や「サブコーチ」に加え、「クラブマネージャー」や「スーパーバイザー」等を含む体制の中で大学生の果たせる役割について討議しました。

第3段階
「渋谷区立中学部活動現場研修」

「渋谷モデル」によるスポーツ部活動を実施している渋谷区立原宿外苑中学校において、前述の各職の職務内容を実際の現場において確認し、改めて大学生が関与できる役割や、大学生がこの体制に参加するモチベーション等について話し合いました。

第4段階
「シンポジウム『運動部活動改革において大学の果たすべき役割は何か』開催」

 青山学院大学がこれまで進めてきた「信頼されるスポーツ指導者」育成の取り組み等についての講演後、①スポーツ部活動はどうあるべきか、②スポーツ部活動において大学生が果たす役割、③大学生がスポーツ部活動に関与するシステムづくり、につき学長、渋谷区スポーツ協会、中学校教員部活指導者、大学教員により討議しました。

実施におけるポイント

①部活動改革の中で大学生指導員の必要なコンピテンシーとして「場づくり」、「コミュニケーション」、「チームマネジメント」を意識した研修プログラムの開発と実施

②スポーツ部活動の在り方と大学生がそこに参加する意義や役割に関するアンケートの実施、部活指導を実施している大学生へのヒアリング、シンポジウムの開催

実証事業の検証・評価

 今回の事業で検証すべき内容は、1.渋谷区が取組む部活改革において大学生が果たせる役割はあるか、2.大学生が参加する場合、本学が取り組んできた「信頼されるスポーツ指導者」育成プログラムが有効に作用するか、3.大学生が部活改革に参加する際のモチベーションは何か、です。体育会に所属している大学生80名を対象にしたアンケートにおいて「部活動において大学生ができるかどうか」の設問では、全ての項目で過半数が「問題なくできる」「まあまあできる」と回答していました。中でも「スポーツの楽しさを教えること」、「礼儀の大切さを教えること」、「コミュニケーション能力を向上させること」は多くの学生が「問題なくできる」と回答していました。また、予想に反して会計や報告業務等のマネジメント業務についてもある程度できるという回答があった一方、「保護者対応」や「事故対応」に問題があるとした学生が多くありました。「部活動指導をするかどうかを選択する際に重要視する項目」については、「大学の正規単位が得られること」を「やりがい」が上回りました。

事業の振り返り/総括

 今年度の事業では、研修を実施した後に渋谷区の部活動に実際に関わることによる効果検証を行うことはできませんでしたが、渋谷区の部活動の実態を踏まえたアンケートの結果からは、青山学院大学がこれまで提唱してきた「信頼されるスポーツ指導者」研修プログラムは、渋谷区がめざす部活改革に沿うものであり、また、「渋谷モデル」におけるマネジメント業務にも大学生が参加できる可能性を示しました。但し、大学生が部活改革に積極的に参加させるためには正規単位を付与する教育プログラム化の他、各部活の特性と、参加する大学生の特性を踏まえ、双方の「やりがい」を得やすくするような目標設定や評価の仕組みを作る必要があります。